経営において「売上目標」を掲げるケースは多いですが、本当に追求すべきは売上ではなく「粗利(売上総利益)」です。
なぜなら、売上はあくまで「見せかけ」の数字に過ぎないからです。
例えば、売上が10億円あっても原価に9億円かかっていれば、手元に残る粗利は1億円です。
経営者はこの「1億円」の中から、人件費や家賃といった固定費を支払い、利益を残していかなければなりません。
売上の大小で一喜一憂するのではなく、最初から「粗利」へ目を向ける経営へとシフトしましょう。
今回は、この粗利を論理的に理解し、実例に基づいた「稼ぐための戦略」について解説していきます。
1. 粗利を論理的に理解する
粗利を増やすためには、まずその構造を正しく把握する必要があります。
粗利の基本構造
粗利は、以下の数式で成り立っています。
(売単価 - 原価) × 販売数量 = 合計粗利
商品単体で考えれば、単価1,000円で原価が600円なら、粗利は400円です。

これが10個売れることで、その商品の合計粗利は4,000円となります。

商品が複数あれば、商品Aの粗利・商品Bの粗利とそれぞれ積み上げていった合計が、会社全体の粗利になります。

粗利を増やす3つの方法
粗利を増やすために打てる手立ては、理論上以下の3つしかありません。
- 単価を上げる
- 原価を下げる
- 販売数量を増やす
これが粗利経営の基本的な考え方です。
なお、小売・卸のようにシンプルに「仕入れて売る」ビジネスであれば商品ごとに管理するのが基本です。

しかし、建設業(下請けメイン)であれば取引先ごと、製造業であれば取引先別・アイテム別に粗利を把握するなど、業種に応じて工夫が必要です。
2. 儲けるための考え方と実例
粗利の構造が見えたら、次は具体的な改善アクションです。まずは現状を「可視化」することから始めましょう。
現状の分析が気づきを生む
商品別・サービス別・取引先別に粗利を出してみるだけで、多くの気づきが生まれます。
- 「この商品、意外と儲かってるんだ」
- 「この取引先、売上は大きいのに全然粗利が取れていない」
こうした発見が、改善のスタートラインになります。
会社によっては、自社の実態を数字で見るだけで、粗利向上のアイデアが出てくることもあります。
原価削減へのアプローチ
昨今の物価高騰の影響もあり、単純に仕入れ値を引き下げることは容易ではありません。
しかし、工夫次第で原価(コスト)を抑える余地は多分にあります。
適正な仕入れ価格の点検
古い付き合いの業者と「なあなあ」になっていませんか?相場から乖離していないか見直しが必要です。
ただし、パートナーを不当に買い叩くことは信頼を損なうため避けてください。
過剰品質(オーバースペック)の改善
材料が過剰に高品質すぎないか検討しましょう。現在の技術なら、より低価格な代替品でも十分な品質を確保できる場合があります。
ロスの削減と歩留まりの向上
材料を100%使い切るための工夫をしましょう。
例えば、これまで捨てていた端材を活用したり売却したりできないか検討してみてください。
検査タイミングを前倒しにする
完成品をすべて検査して不良が出るより、製造の上流工程で早めに問題を発見してはじく仕組みをつくると、無駄なコストを抑えられます。
外注の代わりに自社施工を検討する
建設業のある会社では、工程管理が甘いために何でも外注に頼り、外注費がかさんでいました。
製造業でも、納期遅れをカバーするために外注を使い原価が上がるケースがあります。
工程管理を改善することで、外注費を削減できます。
「儲からない仕事」を断る勇気
最もシンプルでパワフルな方法は、「儲からない仕事を減らし、儲かる仕事を増やす」ことです。
特に製造業・建設業・運送業など、人の手が絡む仕事では、利益率の低い仕事を受け続けることは大きな損失につながります。
その時間とリソースを、利益率の高い仕事に使えたはずだからです。
もちろん、仕事が全くなく人員が手持ち無沙汰な状態であれば、薄利でも受注した方がよいこともあります。
しかし、忙しいにもかかわらず安い仕事を続け、さらに外注まで使って利益を削っているようでは、本末転倒です。
社内に「受注基準」を設ける
具体的なアクションとして、社内ルールを決めることです。
- 粗利○%以下の案件は原則受けない
- 基準を下回る場合は経営者の決裁が必要にする
こうしたルールを設けるだけで、収益性の低い仕事は自然と減っていきます。
どうしても折り合いがつかない取引先とは、最終的に取引がなくなってもよい、くらいの覚悟を持つことも大切です。
利益の出ない仕事にこだわり続ける理由はないのです。
実際の改善事例
ある建設業の経営者は、これまで粗利管理を行っておらず、なんとなく受注を続けた結果、決算を終えてみると粗利率が10〜20%しか出ていませんでした。
そこで現場ごとに粗利を把握する仕組みを整え、「最低30%」を目標に設定。
「見積が通らなければ失注でも構わない」という姿勢で臨んだところ、あっさり受注できるケースが増え、最終的に平均粗利率が30%超に改善しました。
恐れずに、まずやってみることが大切です。
3. あえて粗利を「減らす」という戦略
今まで粗利を増やせと述べてきましたが、小売業や飲食業などでは、少し異なるアプローチも有効です。それが「粗利ミックス」という戦略です。
すべての商品で高い粗利を狙うのではなく、粗利の低い商品と高い商品を戦略的に組み合わせることで、トータルでの利益を最大化します。
具体例①:スーパーの卵特売
スーパーが卵を1パック10円で販売するとします。粗利だけ見れば完全な赤字です。
しかし、この特売によって来店客が増え、他の商品も一緒に買ってもらえることで、店全体の粗利は増えます。
具体例②:通販の「初回500円」戦略
サプリや化粧品の通販でよく見られる「サンプル無料」「初回500円」といった施策も同じ発想です。
入口では赤字ですが、そこから新規顧客が定期購入に移行すれば、長期的には十分な粗利が取れるという戦略的な計算に基づいています。
経営者の腕の見せどころ
このように、一部の粗利をあえて犠牲にすることで、トータルの粗利を最大化する。
これはまさに販売戦略であり、経営者の経営能力が問われる部分です。
こういう販促を考えて、それがうまくいったときの面白さはひとしおです。ぜひ楽しみながら取り組んでみてください。
まとめ:経営者が目指すべき「粗利経営」の核心
粗利経営の核心は、「売上の大きさではなく、残るお金(粗利)で会社を管理する」ことです。
粗利を増やす基本は「単価を上げる・原価を下げる・数量を増やす」の3つですが、最もシンプルで効果的なのは、儲からない仕事を手放し、儲かる仕事に集中することです。
まずは自社の粗利を「見える化」するところから始めてみましょう。
ちなみに、粗利経営を実践するには売上と原価の両方を集計する必要があるため、何らかのデータ管理が欠かせません。
高価なシステムを導入しなくても、小さな会社であればExcelなどで十分に運用可能です。
数字を正しく把握すれば、自ずと打つべき次の一手が見えてくるはずです。

