「借金はできるだけ避けたい」「無借金経営こそが健全な姿だ」 そう考える経営者の方は少なくありません。
一般的な感覚として、借金(事業資金を借りること)はネガティブなものと捉えられがちです。
しかし、小さな会社の経営において、過度な「無借金へのこだわり」は、かえって資金繰りを苦しくし、成長のチャンスを逃す原因にもなり得ます。
本記事では、無借金を目指すと資金繰りが悪化するメカニズムや、業績が良くてもお金が足りなくなる理由、そして「なぜ借金が返せなくなるのか」という根本的な仕組みについて詳しく解説します。
1. 無借金を目指すと資金繰りに苦労する理由
まず理解しておくべきなのは、ビジネスの大原則が「お金が先に出ていき、後から回収するもの」であるという点です。
ビジネスは常に「先出し」
基本的に、利益が出る前には支払いや投資が発生します。
- 小売・卸売業: 商品を仕入れ、在庫として抱える期間があり、売れた後も売掛金の回収まで時間がかかります。
- 店舗ビジネス: 敷金・礼金、内装工事、什器の購入など、オープン前に多額の資金が必要です。
- 製造業・建設業: 高額な機械や車両、道具を先に揃える必要があります。
- サービス業・コンサル業: 設備が不要でも「人」が必要です。採用コストや育成期間の給与はすべて先行投資となります。
このようにビジネスは常に「先出し」から始まるため、手元に現金を残しておくことで運転資金の不足を防げます。
自己資金だけで回す限界
この「先出し」の資金を賄う方法は、「自分の資金(利益の蓄積)」か「他人からの調達(借入)」の2つしかありません。
借金をせずに自己資金だけで賄おうとすると、利益をコツコツ積み上げる必要があります。
例えば年商1億円の会社を例に、利益でキャッシュを貯めるシミュレーションを見てみましょう。
| 項目 | 内容・数値 |
|---|---|
| 年商 | 1億円 |
| 経常利益(5%) | 500万円 |
| 税引き後キャッシュ | 300万円〜400万円程度 |
| 目標キャッシュ(月商3ヶ月分) | 約2,400万円 |
| 貯めるのに必要な期間 | 7〜8年 |
これは毎年利益が出た場合の話です。利益が減少したり赤字が出たりすれば、キャッシュを貯めるのにさらに時間がかかるでしょう。
その間は設備投資も積極的にできず、ビジネス拡大のチャンスを逃し続けることになります。
もちろん、「借金せず、自分と従業員が食べていけるだけの利益を堅実に稼げればいい」という方針であれば、無借金でも問題ありません。
しかし、会社を成長・拡大させていきたいのであれば、自己資金のみでは非常に険しい道のりになります。
2. 業績が好調なときほど、資金不足の罠に陥る
「利益が出ているから大丈夫」という考えにも落とし穴があります。実は、業績が拡大しているときこそ、資金繰りは厳しくなる傾向にあります。
売上が増えれば「必要資金」も増える
売上が伸びるということは、その分「仕入れ」や「在庫」が増えることを意味します。
入金よりも先に支払いや経費が膨らむため、成長スピードが速いほど、手元のキャッシュは不足しやすくなります。
- 2店舗目を出店するための費用
- 仕事量増加に伴う採用・育成コスト
これらはすべて「先出し」です。必要資金が不足する状態が続くと、利益が出ていても倒産する、いわゆる黒字倒産のリスクが高まります。
融資は「時間のショートカット」
ここで有効なのが借入です。利益で数年かけて貯めるはずの資金を、融資であればわずか1ヶ月ほどで確保できます。
「数年分の時間を借入によってショートカットする」ことは、ビジネスを加速させる上で圧倒的なメリットとなります。
3. なぜ「借金を返せなくなる」のか?そのメカニズム
多くの経営者が借入を躊躇するのは「返せなくなったらどうしよう」という不安があるからです。
しかし、借金が返せなくなる原因は、借金そのものではなく別の場所にあります。
借入の推移を理解する
例えば、3,000万円を借りたとします。お金の流れを整理すると以下のようになります。
- 借入時: 借金が3,000万円増えますが、手元のキャッシュも3,000万円増えます。
- 返済時(5年返済): 毎年600万円返済すれば、キャッシュも600万円減り、借入残高も600万円減ります。
基本的には「借りたものをそのまま返す」だけなので、これだけであればプラスマイナスはゼロであり、返済不能には陥りません。
「利息分損する」と考える方も多いですが、現在の相場(利率年1%程度)では、3,000万円借りても年間30万円未満です。
その程度のコストで3,000万円分の安心が買えるなら、安いものと思ったほうが良いでしょう。
返済不能に陥る「2つ」の真因
キャッシュが手元に残らず返済ができなくなる理由は、大きく分けて以下の2つだけです。
- 赤字経営: 収益より費用のほうが多ければ、借金の有無に関わらずお金は減り続けます。
- 本業以外への資金流出: 会計上は黒字でも、以下のような投資や貸付にお金が流れているとキャッシュが枯渇します。
- 他社や個人への貸付
- 投資目的の有価証券の購入
- 利益に貢献しない固定資産の購入
お金を払ったからといって、すぐに会計上の利益が減るわけではありません。
しかし、キャッシュは流出してしまうので、会計上は黒字でも返済不能となる可能性があるということです。
つまり、借金が返せなくなるのは借金のせいではなく、「利益が出ていないこと」か「本業に関係のないことにお金を使っていること」が原因なのです。
まとめ:攻めと守りのための「積極的な借入」を
経営において大切なのは、以下の2点に集約されます。
- お金は借りてでも、手元にしっかりと持っておく
- 本業に集中し、きっちりと利益を出す
手元に資金があれば、チャンスの時に攻めることができ、ピンチの時にも耐えることができます。
無借金という「形」にこだわるあまり、資金繰りに追われて経営の選択肢を狭めてしまっては本末転倒です。
借入を賢く活用し、時間のショートカットと経営の安定を両立させていきましょう。

