中小企業の人事制度を考えるうえで、避けて通れないのが「等級制度」です。
人事制度の骨格となる仕組みであり、賃金制度や評価制度もこの等級制度をベースに設計されます。
以前の記事では、中小企業の人事制度の全体像や、失敗しないためのポイントについてお伝えしました。
人事制度の概要をまだご覧になっていない方は、先にそちらをご確認いただくと、今回の内容がより理解しやすくなります。
【関連記事:中小零細企業に適した人事制度の作り方と失敗しない運用のコツ】
今回は、人事制度を構成する要素のひとつである「等級制度」について、小さな会社に最適な形を詳しく解説します。
1. そもそも人事制度とは
まずは基本の確認から始めます。人事制度とは、次の3つを合わせたものを指します。
①等級制度:社員の現在のランクを示す仕組み
②賃金制度:ランクや仕事内容に応じた給与を決める仕組み
③評価制度:期間内の成果やスキルを評価する仕組み
①の等級制度は、たとえば「あなたは7等級です」「仕事ができるようになったので6等級に上がりました」というように、社員の現在の立ち位置を示すものです。
②の賃金制度は、今のランクや仕事内容に応じて「給料はこれくらいです」と決めるものです。
③の評価制度は、今期の成果やスキルをもとに「Aランクでした」「70点でした」といった形で評価するものです。
この3つを合わせたものが人事制度ですが、ここで重要なポイントがあります。「中小零細企業に合った制度にする」ということです。
世の中の人事制度の解説書には、いわゆる昔ながらの大企業向けの制度が紹介されているケースが多くあります。
しかし、それをそのまま小さな会社に導入しても、うまく機能しません。小さな会社には、小さな会社に合った制度が必要です。
2. 等級制度の主な種類とそれぞれの特徴
等級制度には、職能等級、職務等級、役割等級という3つの種類があります。
それぞれに特徴やメリット・デメリットがあり、小さな会社に合わないものを導入すると、かえって現場が混乱する原因にもなります。
等級制度の主な種類
等級制度は、大きく次の3種類に分けられます。
①職能等級
②職務等級
③役割等級
どの等級制度を選ぶかによって、社員の評価の仕方や給与の決め方は大きく変わります。
それぞれの特徴とメリット・デメリットを押さえたうえで、自社に合うものを見極めましょう。
職能等級は年功序列・終身雇用が前提
職能等級は、昔ながらの制度で、年功序列、終身雇用を前提としたイメージです。
新卒で入社し、何年か経つと1等級上がり、さらに何年か経つとまた等級が上がる、というように、基本的には長く働くほどランクが上がっていきます。
異動しても等級は変わらず、その人自身に紐づいた仕組みである点が特徴です。
ただし、小さな会社に導入する場合には問題があります。そもそも年功序列、終身雇用の時代ではなくなっています。
さらに、「年齢さえ上がれば、今の仕事ぶりに関係なく給料が高くなる」という状態を、中小零細企業が抱えきれるだけのゆとりはないでしょう。
職務等級(ジョブ型)は日本の中小企業には向かない
次に職務等級制度です。
いわゆるジョブ型と呼ばれるもので、「あなたの仕事はこれ、この仕事に対していくらの給料を払う」というように、仕事内容と給料が明確に紐づく仕組みです。欧米型と呼ばれることもあります。
仕事の範囲と給料が明確なのは分かりやすい一方、日本では法律の問題もあり、なかなかマッチしません。
欧米であれば、その仕事ができない場合は解雇という判断も取られやすい傾向にあります。しかし、法律上日本ではそう簡単には解雇できないでしょう。
また小さな会社の場合、「あなたの仕事はこれだけ」と明確に区切ることが難しいケースが多くあります。
「事務担当だが、イベントを手伝ってほしい」「営業担当だが、内勤の人手が足りないので手伝ってほしい」といった場面は珍しくなく、職務等級制度ではこうした柔軟な対応がしづらくなります。
3. 小さな会社に合った等級制度は「役割等級制度」
職能等級も職務等級も、昔ながらの大企業の仕組みをそのまま持ち込むだけでは、小さな会社にはなじみません。
そこでおすすめしたいのが、両者のメリットを組み合わせた「役割等級制度」です。
役割に応じて等級と給与が決まるため、年齢や勤続年数に左右されず、柔軟な働き方にも対応できます。
役割等級制度の仕組み
役割等級制度は、職能等級と職務等級をミックスしたような仕組みで、「あなたの役割はこれ」「その役割の中でスキルアップすれば等級も上がる」というイメージです。
たとえば営業職という役割の中で、できることが徐々に増えていけば、等級も上がっていきます。
職務等級に比べて柔軟性があり、職能等級のように「人」に紐づくのではなく「役割」に紐づく仕組みです。
そのため、仕事の成果にかかわらず長く勤めているというだけで給与が上がる、ということが起こりにくい制度設計になっています。
4. 役割等級制度の設計方法
実際に自社へ役割等級制度を導入する際の具体的な設計方法について、解説します。
役割等級制度の具体例
役割等級制度では、まず等級を大きく3つのクラスに分けます。おすすめは、スタッフクラス、リーダークラス、マネージャークラスの3区分です。
- スタッフクラス:個人の成果やスキルが求められる
- リーダークラス:チームレベルの成果やスキルが求められる
- マネージャークラス:部署や会社全体の成果やスキルが求められる

各クラスをさらに細分化する
それぞれのクラスは、さらに3段階程度に分けます。たとえばスタッフクラスであれば、S3から始まり、S2、S1と昇格していくイメージです。
同様にリーダークラスであればL3・L2・L1、マネージャークラスであればM3・M2・M1というように、各クラスにも段階を設けます。
なお、必ず3段階である必要はありません。会社ごとの実情に合わせて、段階数は自由に決めていただいて構いません。
スタッフクラスの上に「エキスパートクラス」を設ける
もうひとつのおすすめが、スタッフクラスの上にエキスパートクラスを設けることです。
「リーダーなどの管理職にはなりたくないが、職人的なスキルを追求したい」という社員もいますので、そうした人材を評価するための等級として用意します。
等級ごとの「役割定義」を明確にする
等級を作ったら、次にそれぞれの等級について「役割定義」を作成します。
役割定義とは、「その等級の社員に求める役割、スキル、成果」をあらかじめ大まかに決めておくものです。
「S3の役割はこれ」「L1になったらこういうことを期待する」といった内容を明文化します。
一つひとつ作成するのは手間のかかる作業ですが、役割定義がないということは、社員それぞれが何を求められているのかが曖昧なままになっているということです。
経営者の中には、「うちの社員は言われたことしかやらない」「幹部なのに意識が低い」といった不満を持たれている方もいます。
しかし、そもそも「あなたの役割はこれだ」というものを明示していなければ、社員も自分の役割を認識できないでしょう。
役割定義を明確にすることは、組織づくりにおいて非常に重要な作業です。手間はかかりますが、しっかりと作り込んでおくことをおすすめします。
5. 賃金や評価との関係
役割等級制度を導入したら、次に取り組むべきは賃金と評価への反映です。
等級ごとに賃金水準を定め、昇格に必要な評価基準を明確にすることで、社員は自分の役割と処遇のつながりを実感でき、納得感を持って働けるようになります。
賃金への反映
役割等級と役割定義ができたら、まずはそれに応じて賃金を決めます。「S3であればいくら」「S2であればいくら」という具合です。
評価項目の設計
そのうえで、それぞれの等級ごとに評価項目を決めます。
「S3からS2に上がるにはこれができる必要がある」「Lの等級にはこれができる必要がある」といった基準を設定します。
まとめ
今回は、人事制度の中の「等級制度」についてお伝えしました。等級制度は、人事制度全体の土台となる仕組みです。
今回ご紹介した役割等級制度は、中小企業の実情にマッチした仕組みです。
導入を検討される場合はぜひ参考にしていただき、より詳しい制度設計については、専門家の知見を取り入れることも有効な選択肢のひとつです。

