社員の給料はいくらにする?労働分配率なんて無意味

経営者からよく寄せられる相談のひとつに、「従業員の給与はいくらが妥当なのか」というものがあります。

「給与が高すぎるのではないか」「逆に低すぎるのではないか」と、頭を悩ませている経営者は少なくありません。

実は、給与の水準を決めるという問題は、非常に難しいテーマです。

経営の書籍やネット記事、あるいは動画などでは、「労働分配率は〇%が妥当」「年齢の何倍にすべき」といった断定的な情報も多く見かけます。

しかし、そうした画一的な基準に当てはめて結論を出すことはできません。

この記事では、中小企業における社員の給与の決め方について、よくある教科書的な話ではなく、実務に即した考え方をお伝えします。

特に中小企業が間違いがちなポイントにも触れますので、給与の決め方に悩む経営者の方は、ぜひ最後までご覧ください。

目次

1. 中小企業の給与の決め方

結論から言うと、社員の給与をいくらにすべきかは、「会社が目指す方向による」としか言えません。

断定的な結論を示したほうが分かりやすいことは承知していますが、実態を無視した安易な結論を出すことはできないのです。

平均給与データを目指すべきではない理由

業種ごと、会社の規模ごとの平均給与データは、国からも公表されています。

では、その平均値を目指していけばよいのかというと、そうではありません。

給与水準を検討する際の参考にはなりますが、平均を目指すことがそのまま良い会社につながるわけではないからです。

給与に影響を与える要素

そもそも給与を決める際に影響してくる要素は、複数あります。

会社の収益性

儲かっている会社であれば給与を多く払う余地がありますが、儲かっていなければ払うことはできません。

ビジネスモデル

仕事が仕組み化・機械化されていて誰にでもできる仕事であれば給与は低めになり、専門技術職など人の能力に依存する仕事であれば給与は高くなります。

優秀な人材を採用しようとすれば、それだけ高い給与が必要になります。

求人の需給バランス

人手不足の状況であれば、給与を高く設定しないと人材を確保できません。

「業界水準がこのくらいだから、この金額で設定しよう」と決めたとしても、応募が集まらなければ雇うことはできないのです。

あわせて、働く人が求めているものは給与の額だけではないという点も重要です。

給与がそこそこであっても、働きやすさ、やりがい、成長できる環境があれば、採用につながることもあります。

経営者自身の「目指す会社像」が出発点

そして大前提となるのが、経営者自身が「自分の会社をどうしたいのか」という点です。

高収益にして社員の給与も上げていきたいのか、低収益の事業だから給与も低めに設定していくのか、あるいは会社や経営者の利益を優先し人件費を極力抑えるのか。

このあたりは、経営者の価値観や目指す方向性が大きく関わってきます。

高収益にして社員にも高い給与を払いたいのであれば、それに見合う高収益のビジネスをつくっていく必要があります。

どこにでもあるような商品やサービスでは高く売ることはできないため、まずはそこから見直す必要があります。

また、成果が出ないまま社員に高い給与を払うわけにはいかないため、しっかりと教育し、成長を支える人事の仕組みをつくらないといけません。

このように、給与の額を決める際に考えなければならない要素は非常に多く、「労働分配率は〇%が妥当」といった単純な話では済まないのです。

2. 労働分配率とは何か

労働分配率とは、粗利のうち何パーセントを人件費として支払っているかを示す指標です。

粗利1,000万円を人件費・その他経費・利益に分け、労働分配率の考え方を示した構成図

たとえば粗利が1,000万円の会社で、給与や法定福利費などに500万円を支払っている場合、労働分配率は50%となります。

粗利1,000万円のうち50%にあたる500万円が人件費にあてられ、残りの500万円で家賃や光熱費、消耗品費、広告費などを支払い、最終的に残った分が利益となる、という考え方です。

大企業と中小企業の平均値の違い

労働分配率は業種によって異なりますが、一般的には大企業で50%程度、中小企業では60~80%程度が平均的な水準とされています。

大企業のほうが低くなるのは、大企業は粗利を稼ぐ力が強く、中小企業は相対的に稼ぐ力が弱いためです。

労働分配率は粗利に占める人件費の割合であるため、同じ人件費でも粗利を多く稼げる大企業のほうが数値は低くなります。

3. 労働分配率という指標が「無意味」といえる理由

では、この平均値を目指していけばよいのか、あるいは自社が平均値だからよいのかというと、そういうわけではありません。

あくまで、会社が何を目指しているかによって判断すべきだからです。

高給与・低労働分配率の企業事例

大企業の例で恐縮ですが、キーエンスという会社があります。

給与水準が高いことで知られ、日本でも常にトップレベルの平均給与とされ、平均年収は2,000万円ともいわれています。

一方で、キーエンスの労働分配率は15%程度で、大企業平均の50%を大きく下回っています。

平均年収がトップクラスでありながら労働分配率が15%程度ということは、それだけ多くの粗利を確保できている、つまり非常に収益性が高いということです。

労働分配率が低いということは社員への還元率が低いことも意味します。

とはいえ、日本トップクラスの給与を得ているキーエンスの社員が「もっと給与として還元してほしい」と訴えることは、あまり考えにくいでしょう。

労働分配率ゼロに近い中小企業の事例

中小企業の例では、年商10億円ほどの規模でありながら、社員がほぼ在籍していない会社もあります。

仕事を受注し、その業務をすべて外注に振り分けるビジネスモデルです。

外注費として7~8割を支払い、残りが自社の粗利となります。

実務はすべて外注が担うため、自社には社員がおらず、労働分配率は0(ほぼ役員報酬のみ)という状態です。

このように、「適正な労働分配率」というものは存在しないのです。

4. 給与を考えるときに本当に大切な視点

給与の額そのものよりも重要なのは、自社がどのようなビジネスモデルを描き、どんな会社を目指すのかという視点です。

ビジネスモデルによって人件費は変わる

ここまで例に挙げた会社を目指すべきだということではありません。

伝えたいのは、「ビジネスモデル次第で人件費のあり方も変わる」ということです。

業界平均がどうこうという話ではなく、経営者自身が「どうなりたいのか」から考えるべきなのです。

先に紹介した2社は労働分配率が低い例でしたが、逆に高くてもかまいません。

あえて社員の給与を高く設定し、それによって優秀な人材を集め、高収益の事業をつくることで利益を出すというモデルも成立します。

大切なのは、そもそもどのような会社を目指すのかを、経営者自身がきちんと考えているかどうかです。

「給与が高すぎる」と感じたときに考えるべきこと

たまに、「会社は儲かっていないのに社員の給与が高すぎる」と嘆く経営者もいます。

しかし、それは「儲からない仕事ばかりを受注している」「社員の教育やスキルアップの仕組みが整っていない」など、経営そのものに問題があるケースも少なくありません。

もちろん、能力が低い、あるいは意欲の低い社員がいる可能性を否定はしませんが、それも含めて、経営者自身が目標を定め、その実現に向けて経営を進めていく必要があります。

つまり、「適正な給料はいくらか」という答えを求めるのではなく、「自分はどうしたいか、どのような会社にしたいか。そのためには給与をどうあるべきか」という視点で考えることが重要です。

労働分配率や業界平均は、あくまで「参考」として位置づけ、「目標」にはしないようにしてください。

5. 経営指標を使う際の注意点

労働分配率をはじめとした経営指標は、扱い方を誤ると正しい分析ができません。ここでは、中小企業が特に注意すべき2つのポイントを解説します。

役員報酬の扱いで数値が大きく変わる

労働分配率をはじめ、経営分析ではさまざまな「〇〇率」という指標が使われますが、中小企業がこうした指標を扱う際には注意が必要です。

たとえば労働分配率を計算する際、役員報酬を人件費に含めるかどうかという論点があります。

役員報酬は年に一度、比較的自由に決められるものです。

小さな会社では、業績が良ければ役員報酬を一気に増やし、業績が悪化すれば大きく減らすということも珍しくありません。

労働分配率は粗利に占める人件費の割合であるため、役員報酬を人件費に含めると、役員報酬を上げるだけで労働分配率が急上昇し、下げれば急低下するということが起こります。

これでは、正確な分析や判断はできません。

中小企業の経営分析は教科書通りにいかない

では役員報酬を除いて分析すればよいのかというと、業界平均などの統計値は役員報酬を含んだ数字であるため、単純な比較ができなくなってしまいます。

これは労働分配率に限った話ではなく、売上高営業利益率など他の経営指標についても同様のことがいえます。

中小零細企業の経営分析は、教科書通りの方法をそのまま当てはめても、あまり意味を持たないことが多いです。数字を鵜呑みにしないようにしてください。

まとめ

社員の給与をいくらにするかという問いに、画一的な正解はありません。

労働分配率や業界平均は、あくまで参考情報のひとつであり、それ自体を目標にすべきものではないからです。

本当に考えるべきは、経営者自身が「どのような会社にしたいのか」「そのためにどのような給与のあり方が必要なのか」という視点です。

収益性やビジネスモデル、採用市場の状況、そして経営者自身の価値観を踏まえたうえで、自社にとっての給与のあり方を見つめ直すことが求められます。


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